分かりやすい泌尿器科の話A 前立腺肥大症

                     森医院 院長 森 啓高

 

今回は前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)の話です。この病気は男性高齢者特有の疾患で、急速な高齢化に伴って患者さんがふえています。しかし、天皇陛下が手術を受けられた前立腺がんとは異なる病気です。したがって命にかかわることはまずありません。ただ、排尿にかかわる症状が中心ですので、患者さんの悩みは大きいといえます。また、前立腺がんとの区別が大事です。

 

1.        前立腺とは何?

膀胱の下にある栗の実大の臓器で、精液の1/3がここで作られます。多くの男性で、年をとるとともに大きくなります。膀胱の出口を取り囲んでいますので、圧迫により、さまざまな症状をきたします。

前立腺は内腺(尿道に近い中心部)と外腺(尿道から離れた辺縁部)に分けられ、肥大症は内線から、がんは外腺から発生します。

肥大症は尿道近くの内腺に発生しますので、がんに比べて初期から症状の出やすいのが特徴です。肥大症とがんが合併することもあります。

 

2.        症状は?

初期には、尿に勢いがない、尿の切れが悪い、夜中に何度もトイレに行くといった症状が出ます。進行すると残尿(排尿後に膀胱に尿が残ること)が発生します。時には、お酒を飲んだ後などに、急に尿が出なくなること(尿閉)も起こります。

さらに進むと、腎臓に負担がかかって腎不全をきたしたり、膀胱に石ができることもあります。膀胱炎を繰り返すこともあります。

客観的に症状を捉えるため、IPSS(国際前立腺症状スコア)がしばしば用いられます。

 

3. 検査は?

   尿流測定(機械の前で排尿)、エコー(超音波検査)、採血(PSAと

腎機能)、直腸診などを組み合わせて行います。PSAはがんとの区別をするために重要です。

 

4. 治療法は?

初期には薬物療法が中心になります。

α遮断薬:前立腺部尿道の抵抗を取り除き、排尿障害を改善します。

抗男性ホルモン薬:前立腺を若干小さくします。

植物製剤、漢方薬:前立腺の炎症やむくみをとり、自覚症状を和らげます。

進行すると手術が必要になることもあります

TURP(経尿道的前立腺切除):もっとも標準的な治療法です。おなかに傷を残さず、尿道から内視鏡で前立腺を削ります。

その他:温熱療法、高温度治療、レーザー手術、ステント留置術など、さまざまな選択肢があります。

5.        生活上の注意は?

アルコール(日本酒、ビール、ワイン、焼酎などすべて)摂取により症状の悪化することが多く、尿閉が時に起こります。この際は尿道から細い管を入れて膀胱にたまった尿を抜きます。

市販の風邪薬で尿閉になることがあります。

尿の我慢のしすぎ、冷えもよくありません。

仕事や旅行で、長時間座りっぱなしになることも、症状を悪化させる誘因になります。1,2時間に1度は短時間でも歩くようにしましょう。