分かりやすい泌尿器科の話 C
前立腺癌
森医院 院長 森 啓高
最近増えつつある前立腺癌(ぜんりつせんがん)の話です。この病気も男性高齢者特有の疾患で、急速な高齢化に伴って患者さんがふえています。天皇陛下が手術を受けられたことで有名になりました。初期には症状がなく、私が医者になりたてのころは腰痛などの転移の症状で発見されることも多かった病気です。前立腺肥大症とは別の病気です。
1.
前立腺とは何?(分かりやすい泌尿器科の話Aもご覧下さい)
膀胱の下にある栗の実大の臓器です。前立腺は内腺と外腺に分けられ、肥大症は内線から、癌は外腺から発生します。癌は尿道から離れた場所に発生しますので、肥大症に比べて初期には症状が出ません。癌と肥大症が合併することもあります。
2. 症状は?
初期には症状がありません。進行すると、尿に勢いがない、尿の切れが悪いなど肥大症に似た症状や、腰椎、骨盤、大たい骨などの骨に転移した症状(腰痛など)が現れます。
早期発見のためには採血(PSA)が有用です。
3. 検査は?
まず採血(PSA)が重要です。直腸診(肛門から指を入れて前立腺を触診します)も大事です。
PSAは絶対的なものではありませんが、一般的には以下のように考えられています。
4以下:癌の可能性が低い
4.1−10.0:癌の疑いがある(20−30%)
10.1以上:癌の可能性が高い(50%以上)
4. 診断方法は?
前立腺を直腸または会陰部から針で6箇所以上刺します(病院で1、2日入院をするのが一般的です)。採取した前立腺組織を顕微鏡で病理医がチェックします。診断がついたら、MRI、CT、骨シンチなどで病気の広がりを検討します。
5. 治療法は?
病気の広がり、年齢等に応じて以下のような選択肢があります。
それぞれの長所、短所を良く考えて治療法が決まります。
前立腺全摘除術:手術で前立腺とその後ろにある精嚢を取ります。
75歳以上には一般に行いません。尿漏れ、性機能障害などの合併症の起こることがあります。
放射線療法:外照射(外から放射線を当てる)と小線源治療があります。
外照射;従来のX線による治療と、新しい粒子線治療(陽子や炭素線)があります。後者は高度先進医療のために、治療費は放射線治療の部分が自費です(かなり高額です)。
小線源治療;前立腺内へ小さな放射性のカプセルを埋め込みます。
いずれの方法でも放射線による障害の起こることがあります。
ホルモン療法:定期的に男性ホルモンをおさえる注射を続けます。飲み薬を併用することもあります。性機能障害はほぼ必発です。
一般的ではありませんが、前立腺癌の量が大変少なく悪性度が低い時
には、無治療で経過観察をすることもあります。
以前に比べ、選択肢が大変多くなりました。患者さんの年齢、持病の有
無、人生観などにより選択肢は変わってきます。